信託保全

ほんとに犬なの?

あれは私が小学生の時のことです。

5年生に上がる時に親の仕事の都合で転校しましたが
新しい学校は1年1クラスというこじんまりしたサイズ、
いとこやはとこなど親戚関係も多く、私のようなその土地に全くゆかりがない
転校生は相当珍しかったようで最初は放課後になると「うちに遊びに来て」と
周りの人が殺到するくらいでした。

なので順番にお友達の家を訪ねていたある時、
クラスのボス的な女子からうちに遊びに来てよ、とお誘いがありました。

彼女の家は鉄工所か何かを経営していて1Fが工場、2Fが自宅、という建物で、
家というよりは工場の2Fに住んでいる雰囲気に近かったのを覚えています。

工場の脇を通って、外階段から2Fに上ろうとしたその時、
ちょっとした子牛サイズの犬がそばにいることに気がつきました。

首輪が鎖でつながれてはいますが、こんな大きい犬を見たのは初めてです。
目つきもかなり凶暴そうで、こちらを睨みつけてきます。
それなのに誘ってくれた女子は
「すごく大人しいから大丈夫。あんまり怖がると向こうも嫌がるから、騒がないでね」
と平然とすぐそばを通って自宅に入っていきました。

実は犬が少し苦手だった私は、どう考えても自力でそのルートを通れるとは思えませんでしたが、
まさかここで帰るわけにも行きません。
仕方なく、刺激しないようにそおっとそばを通りすぎようとしたその時、
「ワンワンワン!」と耳をつんざく鳴き声が。
見ればさっきの犬が私の方を見て飛び掛らんばかりの勢いで吠えています。
かろうじて首輪をつなぐ鎖が今にも取れそうな様子で引っ張られています。

するとさすがにまずいと思ったのか、すぐその家の女の子が戻ってきて犬を黙らせてくれましたが、
私はその後数日、その犬の出てくる悪夢をみました。
でもよく考えれば、私を闖入者だと思った訳で、番犬としては正しい反応だったんだな、
と今は分かりますが、とにかくあれだけ大きい犬にはあれから会ったことがありません。

初めて犬とふれあったのは小学生3年生ころの事でした。
当時私は動物に触れるという経験が殆どなかったのですが、
犬を飼っている友達が出来たのを機に、初めて触る事ができました。

最初は怖かったのですが、その犬から伝わる体温というか、ぬくもりのようなものがすごく心地よく、
その友達の家の前を通るたびに、軽く撫でてあげるのが下校時の習慣になっていました。
しかし、その犬が、私が大学受験をする、およそ数ヶ月前に亡くなってしまいました。

高校生になった頃からあまりその友達の家に行く機会もなくなっていたので、
「せめてもう一度だけ撫でてやりたかったなぁ・・・」と後悔の念に襲われました。

それから数年が経ち、社会人になったころ、社会の厳しさについ弱音を吐くことが増えていたときに、
その友達の家にかつていた犬と同じ種類の犬が、私の足下にとまり、じっと眺めてきたのです。
私は自然と手が出て、その犬の額を何度か撫でてあげました。

「あの頃の私はもっと元気だったのにな・・・」とつい、その犬を見ながら泣きそうになってしまいました。
それから、少し落ち着いたころに、保健所にいる犬を1匹引き取ることにしました。
というのも、そのかつて友達の家にいた犬も、保健所からもらったものだったらしく、
それを聞いて私もそうしようと思ったからです。

保健所にいる犬はペットショップにいる犬に比べたら多少不細工な気もするけど、
友達の家にいた犬と何か同じようなものを感じられ、心が和まされます。
あの頃からずっと、私にとって犬は重要な人生のパートナーだったのです。

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